赤血球(RBC)
赤血球は肺で取り入れた酸素を全身に運び、不要となった二酸化炭素を回収して肺へ送る役目を担っています。
赤血球の数が多すぎれば多血症、少なすぎれば貧血が疑われます。
血色素(Hb)(ヘモグロビン)
血色素とは赤血球に含まれるヘムたんぱく質で、酸素の運搬役を果たします。
減少している場合、鉄欠乏性貧血などが考えられます。
ヘマトクリット(Ht)
血液全体に占める赤血球の割合をヘマトクリットといいます。
数値が低ければ鉄欠乏性貧血などが疑われ、高ければ多血症、脱水などが考えられます。
MCV・MCH・MCHC
MCVは赤血球の体積を表します。
MCHは赤血球に含まれる血色素量を表します。
MCHC赤血球体積に対する血色素量の割合を示します。
MCVの数値が高いと、ビタミンB12欠乏性貧血、葉酸欠乏性貧血、過剰飲酒が疑われます。
低いと、鉄欠乏性貧血、慢性炎症にともなう貧血が疑われます。
女性に貧血の人が多くみられるのはなぜ?
血液中の赤血球数の基準範囲は、男性が400万~539万/μℓ、女性が360万~489万/μℓで、ヘモグロビンは男性が13.1~16.6/㎗、女性が12.1~14.6/㎗とされています。そして赤血球に関しては男性359万/μℓ以下、女性329万/以下、ヘモグロビンに関しては男性11.9/㎗以下、女性10.9/㎗以下が異常とされています。
ヘモグロビンに関して異常とされる割合は、男性が約3.4%、女性が約5.8%ですが、基準範囲未満で要注意とされるグレーゾーンまでを含めると、男性は約10%なのに対して女性は16%を超えており※2、女性の方が貧血になる危険性が高いことがわかります。
血液の中の赤血球は、健康な人でも約120日たつと脾臓で分解されます。赤血球の割合を正常に保つためには、毎日一定の量がつくられなければなりません。しかし女性の場合は毎月月経で血を失うため、貧血につながりやすいと考えられます。
女性は初経から閉経までの期間のうち、約10%程度が鉄欠乏性貧血状態にあるといわれています。また、妊娠や授乳によっても、体内の鉄分が減少しがちになります。さらに過多月経の場合には、その割合はもっと増えてしまいます。過多月経の主な原因は子宮筋腫や子宮内膜ポリープ、子宮腺筋症、子宮体がん、子宮頸がんなどですが、なかでも一番多くみられるのは子宮筋腫です。
子宮筋腫は良性潰瘍によるもので、一般的に20~35%程度の女性にみられるといわれています。子宮筋腫には女性ホルモンの一つであるエストロゲンが関係しているということはわかっていますが、発生する原因はまだ解明されていません。ちなみに初経前の年齢にはほとんど見られず、閉経後の年齢でもあまり多くはありません。
子宮内膜ポリープは、エストロゲンが過剰に分泌されることによって子宮内膜が異常に増殖して発生すると考えられています。子宮腺筋症は、子宮内膜に似た組織が子宮筋層にできてしまったものです。これも女性ホルモンが関係している可能性があるとされる病気で、30~40歳代の女性に多くみられます。
過多月経の原因を明らかにすることは、その後の健康に大きくかかわってきます。だから過多月経の場合はもちろん、月経痛がある、おりものが見られるなどといった症状がある場合には、婦人科を受診しましょう。「妊娠していないのに婦人科を受診していいの?」という疑問を感じる必要はありません。これらの不安を解消するために、専門医がいるのですから。
ちなみに鉄分が不足していると、肌や髪の状態にも影響が出ます。紫外線を浴びると体内に活性酸素が発生して肌にシミができることがありますが、活性酸素を消去する酵素「カタラーゼ」の生成には鉄分が必要です。つまり鉄分が不足すると、肌にシミができやすくなってしまうのです。また、目の下にクマができるのも、鉄分不足が原因の一つです。鉄分が不足して、血液が酸素を十分に補給できないため血行不良が起きてしまうからです。さらに、髪のツヤがなくなったり抜け毛が増えるのも、鉄分不足が原因ともいわれています。貧血気味という程度であっても、鉄分を十分に補給する必要があるのです。
3015人の日本人女性を調べたある研究では、鉄欠乏性貧血の人が8.5%、貧血のない鉄欠乏の人が41.8%、健康な人が43.6%、その他が6.5%という結果が出ています。つまり、約半数の女性に何らかの鉄欠乏が見られたというのです※3。貧血の症状に至っていなくても、体にさまざまな不調をきたすことは十分に考えられますから、いかに日ごろの食生活が重要なのかがわかるでしょう。
栄養が不足することで起きる貧血とは?
貧血は、栄養が不足することで起きることがあります。なかでも一番多くみられるタイプが「鉄欠乏性貧血」です。貧血の70~80%が、鉄分が欠乏するために起きる貧血だといわれています。
血液の赤血球に含まれているヘモグロビンは、鉄を含むヘムという赤い色素とたんぱく質が結合してできており、このヘモグロビンが酸素を全身に運んでいます。また、代謝で産生された二酸化炭素を肺まで運んでいるのもヘモグロビンです。しかし鉄分が不足するとヘモグロビンの生成が減少し、体のすみずみまで酸素を届けることができなくなってしまいます。こうして貧血が起こると、全身倦怠感や動悸、息切れ、食欲不振などの症状が現れます。心臓は大量の血液を流して酸素不足を解消しようと、鼓動を早くします。呼吸が激しくなるのも、酸素を体に取り入れようとするためです。このように、肺や心臓に負担がかかるだけでなく、心臓肥大につながってしまうこともあるのです。
鉄欠乏性貧血は、鉄分不足の偏った食事や過度なダイエットで引き起こされることがあるほか、病気などによる出血でも起こります。また、胃腸での鉄分の吸収に問題があるときに起こる場合もあります。
赤血球は骨髄で生成されますが、最初に赤芽球という赤血球のもとになる母細胞が作られ、それが細胞分裂することで作られていきます。このときに必要となるのが、葉酸やビタミンB12といったビタミンです。葉酸やビタミンB12が不足すると赤芽球の細胞分裂がうまくいきません。その代わりに巨赤芽球という大型の赤芽球ができてしまい、赤血球が増えずに貧血となってしまうのです。これを「巨赤芽球性貧血」といいます。
バランスのとれた食事をしていないことが大きな原因と考えられるほか、大量の飲酒でもこのタイプの貧血を引き起こします。また、胃腸の障害で食事からビタミン類を十分に吸収できない場合にも、このタイプの貧血が起こります。なお、現在ではこのタイプの貧血に対しては、葉酸やビタミンB12を投与するなどの治療法が確立されていますので、過剰な心配をする必要はなさそうです。
病気などによる出血の場合は別ですが、貧血気味という程度の状態なら、毎日の食生活の改善などで解消できる場合がほとんどです。
鉄分は、食事で摂ったもののうち10%程度しか体内に取り込まれないといわれるほど、吸収されにくい栄養素です。そのうえ、ほかの栄養素が不足すると吸収率は上がりません。そのため、鉄分を多く含む食品以外にも、バランスのとれた食事を考える必要があります。
また、鉄分にはヘム鉄と非ヘム鉄の2種類があります。ヘム鉄を多く含む食品はレバーや肉、魚類です。一方、非ヘム鉄は野菜や豆類、海藻、卵などに含まれています。ヘム鉄は非ヘム鉄より体の吸収率が高く、牛肉の鉄分の吸収率は約20%です。それに対して非ヘム鉄の吸収率は10%以下のものが多いのですが、動物性食品やビタミンCなどと組み合わせることで、吸収率が向上するといわれています。
葉酸は、緑黄色野菜やかんきつ類などの果物に多く含まれています。また、ビタミンB12は肉や魚類、卵、乳製品など動物性食品に含まれています。つまり、「貧血気味だから鉄分を補給しよう」とレバーや魚ばかりを食べるのではなく、野菜や果物を含め、食品の種類を増やすことがポイントといえそうです。
侮れない貧血です。