無油民族
今でこそ日本人は食の欧米化によって脂肪のとりすぎが懸念されているが、かつての日本人は「無油民族」と言われるほど、ほとんど油脂をとらなかった。終戦からしばらくたった1950年ごろの日本人の油脂類の摂取量は、なんと一人一日あたり二・六片
(小さじ二分の一杯強)にすきない。なぜこんなに少なかったのだろうか。その理由として考えられるのは、六七五年の天武天皇による肉食禁止令である。発布後、肉やそれに伴う脂肪をあまり摂取しなくなったようだ。
そもそも当時は、油はもっぱら食用ではなく、灯明油として用いられていた。搾油や精製の技術が発達していなかったため、油は貴重な存在。
その上、平安時代には油座と呼ばれる組合ができ油を統制したため、値段が高く、ごま油一升が米四斗五升に相当したという。といっても中国から油を使用した精進料理が入ってきていたので、一部の貴族階級は油料理をとっていたが、それほど積極的ではなかった。日本の環境がそうさせたと考えられる。
中国料理研究家の木村春子氏によると、これは水が原因という。日本は近年こそ水質の悪化が指摘され、ミネラルウオーターがかなり普及しているが、五十年くらい前までは、世界でも有数の美しく澄んで、そのままでも飲めるおいしい水が豊かにあった。そのため、水を用いた料理が発達したというわけである。
その典型例が生食。刺し身のように、ただ水で洗うだけで食べても衛生上あまり問題が起きなかった。そこで、料理は何でも水で処理してしまう淡泊な日本料理が生まれたと思われる